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師父…

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「今日は、お師さんのところへ行くが
嬢はいっしょにくるか?」

「うん行く。(^-^*)」

「少し、足を伸ばすが音を上げないようにな。」

戦のない休日。造兵を部下に任せ、
久しぶりに剣のお師匠さんのところへ行くことにした。
お師さんは既に88才。米寿を迎えているが、
引退しているが、矍鑠としていて
若い時分と変わらないと相弟子から聞き、
懐かしさもあり、連絡も取らずにとりあえず向かうことにした。

「懐園さまのお師匠さまはどこにいるの?」

多摩川を超え、品川宿を越えたあたりで聞いてきた。
既に弧鷲庵をでて三時間超。お腹もすいてきたところだろう。

「浅草じゃ。浅草寺という大きなお寺のちかくじゃよ」

「ふーん。ここから近い?お腹すいたよ~」

「あと少しじゃ。四半時…かからん位か。
着いたら何か美味しいもの食べようかの。我慢できるかの?」

「じゃあ、我慢する。もう少しだものねえ」

少し、歩を早め東海道の起点、日本橋を過ぎ、
あと少しで浅草という処。駒形橋に差し掛かると、にこにことこちらを
見ている老人が一人。

「おお、お師さま。ご無沙汰しております。なんぞここでご用ですか?」

「何、今朝お主とそこの嬢ちゃんが訪ねてくるのが見えての。
頃合じゃと思って待っておったんじゃよ。」

「なんと!既にお見通しでありましたか。」

剣の道を極めて行くと本当にあることらしい。
身の回りの事が語りかけてくるというか、感覚で分かったり、
実際にその場面が見えたりということが。

話が脱線するが、時代が大いに下るが明治の剣客、「榊原健吉翁」なども
自身を訪ねてくる高弟が家を出てくるのが見えたという逸話も残っている。

「お嬢さん。お腹がすいているだろう?もう食べられるように
 準備済みじゃが、懐園より爺様な儂と一緒にご飯をたべてくれるかな?」

「食べる~」

「これこれ、挨拶もせんで…」

「子供はこれで良い。では行こうか。」

促されて向かったのは、そこから路地一つも離れていない店だった。
何やら食欲を唆る香りが店の中から漂ってくる。

駒形どぜう…」

お師さんから以前話には聞いていたが、訪れる機会がなかった店だった。

「どじょう、食べるのね~」

嬢が喜ぶ。彼女も初めて食べるものを目にし、興味津々のようだ。

通常は料理を待つ時間が必要だが、既に話が通っていたようで、
席に案内されるとすぐに食事が運ばれてきた。

「すごーい。すごいね、懐園さま。」

「ああ、凄いのう。お師さま、ありがたくいただきます。」

「儂もいただこうかの。」

出てきたのは嬢には、どじょうをつかった柳川鍋。
卵でとじられて子供でも食べやすい。
そして、儂にはどじょう鍋。たっぷりと大きめのどじょうが使われていて
少々食べたくらいでは全く減らないほどの量。
やくみのネギを大量に入れて熱いまま頬張る。

「旨い!。」

甘めの味噌で味付けられた鍋に入っているどじょうは骨がとられ、
既に食べやすい状態に。骨を気にせずばくばく食べられるのはうれしい。
あと、個人的にはどじょうのだ出汁を吸い、旨くなったネギとささがきごぼう。
これがまた堪らない。白飯を頬張りながら口に運ぶと、旨みが合わさり
かなり食がすすむだろう。
また、定食についてくるどじょう汁もまた玄妙な味。
慣れない者にはびっくりしてしまうが逆にこれがやみつきになる者も多かろう。

前を覗けば嬢が柳川鍋と格闘中。
かなり気に入ったらしく、無言で食べ続けている。

「お師さんは?お食べにならないので?」

「儂はこの歳じゃからの。これじゃ」

目線の先は特別に頼んだどじょうの蒲焼。
これもうまそうだ。

「ひと串…」

言いかけたが、これは次回のために取っておくことにしよう。

「ふう、美味しかった。やっぱり着いてきてよかった。」

「それは、何よりじゃったな。嬢ちゃん。」

「うん。お師さま、ありがとう。」

「よかったな。喜んでくれて儂もうれしいわ。」


お腹が落ち着いたところで、三人で浅草寺の方面に歩く。
道すがら今の状況を伝えた。

「なんにせよ、生涯修行じゃからの。お迎えが来るその時まで
一歩でも前にの。」

「はい。肝に銘じて精進いたします。」

揃って浅草寺をお参りし、裏手を抜けてお師さんの庵兼道場へ。
嬢はくる途中にみつけた「花やしき」に遊びに行った。


「さて、一つ見てしんぜようか。」

「お願いいたします。」

道場に入る。
昔から変わらず、ひんやりとした空気を纏った空間で、
無刀で佇むお師さんの前に立つ。

刀に手をかけた瞬間、師匠の体から剣気が立ち上り、空間を支配する。
昔はそれだけで動けなくなったものだが、
最近になり漸く流れに身を任す事ができるようになってきた。
お師さんの気に逆らわず、霜が降りるようにゆっくりと、ただ、
そこに昔からあるのが自然な石の様に。

頭で考えるではなく体が自然と動き、刀を抜きつける。
間合いを詰める為に出た技は「打止」だった。

左下に刀を抜きつけ、返す刀で切先を上へ飛ばす。
更にその刃先を返し上段から袈裟懸けに斬りつける。

全ての動作をひと呼吸のあいだに行い、息をつく。
しかし、元居た場所からお師さんは殆ど動いていない。
僅かに斜めに開いた身体が先ほどとの違いだった。
しかし、それだけだった。

「大分、腕を上げたの。」

「いや、まだまだです。お師さんの背中はまだ見えません。」

「そう思えるなら、既にそれほどの差はないぞ。」

88歳とは思えないほどの大きさに感じた体は、既にさっきまでの
好々爺の風に戻っていた。…


暫く、母屋で昔語りや仲間の近況を聴いたりしながら楽しい時間を
過ごしたが、何事にも潮がある。
すでに逢魔刻に差し掛かる刻になっていた。

「長居をいたしました。また、大変楽しい時間をありがとうございました」

帰宅する旨の挨拶をし、辞することとした。
すでに嬢もあそび終えて帰ってきていた。
日本最古の「じぇっとこーすたー」に乗ったらしく大満足のようだ。

「ありがとねえ、お師匠様~。」

嬢が微笑む。

微笑みを返しながら、お師さんが頷く。

「達者でな。これが今生の別れになるじゃろう。」

実は儂もそんな気がしていた。だからこそ今日、ここに来たのだ。

「お達者で。」

「はいはい。でわの」

達観したその目からは暖かい自愛の光が溢れていた。
一礼し、帰路につく。

暫くすると、後ろから声がかかる。

「そうじゃ、忘れ物じゃ。持っていけ」

お師さんの居た場所から、裂帛の気合とともに一仭の風が吹く。
間違いなく、お師さんからの生涯一の贈り物だった。

「秘奥義 仭風」

人を斬らず、人の悪しき心だけを斬る。
生涯修行に費やしたお師さんだけがたどり着けた最後の技を土産に
振り返らずに弧鷲庵へと道を取った…


儂の頬には枯れたと思っていた涙が溢れていた…

「ごゆっくり、お休みください。お父上…。
 いずれ、また、あの世で。」


悲しみに浸っている時間は無い。
既に次の戦は迫ってきているのだから…


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~ Comment ~

NoTitle 

いや ホントにいい感じの文章ですねー
悲しみを超えて懐園さんは強くなるのですね

下町にも久々に行きたくなりました
(もちろん出張の時の空き時間でですが)

天メイトさん。 

いつもありがとうございます~。
いや、なんだかちょっと中だるみ気味で(/ω\)
ixa以外も含めて週2回くらいは更新したいんですが…

でも、褒めてもらうとまた、頑張りたくなります!
しかし、何書こう…今回参戦殆どしてないんですよね…
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